ビター・スウィート
つまさき
オフィスの窓から見える空が夕焼けに染まる頃、時計の針は定時の十七時を指す。
「あーっ、終わったぁー!」
金曜日の仕事終わり、という開放感にぐでーっと机に伏せる私に、隣のデスクでは菜穂ちゃんが鏡片手にグロスを塗り直す。
「お疲れさまでぇーす、今日もよく働いてましたねぇ」
「今日もあの悪魔が容赦無く仕事押し付けてきたからねぇ……」
私の手元に今日も積み上げられた書類の山。それは今日も、あの悪魔……こと内海さんが『急ぎでやれ』と置いて行った仕事。
やっている間は忌々しい気持ちでいっぱいだったものの、終わった今では達成感すら感じてしまう。
「でもこれで土日は休みだし、休むぞー!」
「休むって……何か用事とかないんですかぁー?」
「ないねぇ。だから帰りにDVD大量に借りて食料買い込んで、土日はダラダラと過ごすんだ……」
「ちーせんぱぁい、20代女子としてそれってどうなんですかぁ〜?」
ふふ、と笑う私に、菜穂ちゃんは呆れたように言う。
「じゃあ菜穂ちゃんの土日の過ごし方は?」
「土曜の夜に彼氏の家行って泊まってぇ、日曜は一日デートですぅ」
「あ、そう……」
反論出来ないくらい完璧な休日だ……そう聞くと私の土日の過ごし方は何て枯れているんだろう。
パチン、とコンパクトを閉じる菜穂ちゃんに、同年代の女同士でこうも違うかと少しがっくりとしてしまう。