ビター・スウィート
やだ、気持ち悪い……けど、どうしたらいいかわからない。怖いっ……!
「永井」
その時、静かな売り場に響いたのは低くよく通る声。
「え……?」
「ちょっと、こっち来い」
半泣きの顔で振り向けば、背後からやってきた内海さんは私の肩を抱き、男性から引き離すようにして歩き出す。
「う、内海さ……」
黙ったまま、立ち止まることを許さないように歩く彼に、高いヒールの足元は必死についていく。
な、何で内海さんが……もしかして、気付いて庇ってくれた?
戸惑ううちに文具屋を出ると、フロアの一番奥にあるひと気のない非常階段の影でようやくその足は止められた。
「……ついて来てる様子はないな」
内海さんはそうチラリと文具屋の方を確認すると、安心したようにひとつ息を吐いた。それと同時に肩からはパッと手が離される。
怖かった、助かった、その安心感から途端に足元からは力が抜け、私はへなへなとその場にお尻をついて座り込んでしまう。
「……こ、怖かったぁ〜……」
「バカ。あんな死角行くからだ」
「だって……」
まさか文具屋でこんな目に遭うなんて、想像もしていなかったから。だからこそ余計に感じた恐怖に今になって手が震え出す。
そんな私に視線を合わせるように、彼は目の前にしゃがみ込んだ。