ビター・スウィート
「ボツ」
「へ?」
やってきた会議室で、行われていた商品会議の最中。内海さんは、私が出した書類をその一言とともに突き返す。
「ぼ、ボツって……何でですか!?折角考えてきた新作ボールペンのキャッチフレーズ……」
「『スーッとした書き心地』ってありきたりすぎだろ。もっと具体的に個性を出せ」
「そう言われても……」
「つべこべ言うな、やれ」
有無を言わさぬ偉そうな言い方と、高圧的な鋭い目。そんな彼に、私は思い出す。
あぁそうだ、やっぱりこの人はただの悪魔だ……と。
人が必死に考えたことも、『ありきたり』の一言で斬って『やれ』と命じる。
良くも悪くも本当に仕事には誠実なのだろうけれど、こちらの心はその度折れそうになる。
「じゃあ一旦休憩。会議再開は十五分後だ」
自然とその場を仕切る役目となっている内海さんの言葉を号令に、会議室にいた全員は席を立ちそれぞれに休憩へと向かった。
具体的に個性を出せと言われても……いくら考えても、ボールペンの書き心地を表すのなら、このフレーズが一番しっくりくると思ったんだもん。
スーッと、なめらか?スムーズ?サラサラ?考えるほど悩む内容に休憩にならず、私はうーんと頭を抱える。