ビター・スウィート
「うわ、何だよ広瀬。そんな物騒な物持ちやがって」
「えーと、ブレスレットに髪が絡まっちゃいまして」
絡んだ毛先と広瀬先輩がハサミを持つ姿に内海さんは怪訝な顔をしてみせる。
「それでハサミで切ろうってか?こんな不器用にやらせたらごっそり切られるぞ」
「ごっそりなんて失礼だなぁ。……少しくらいは切りすぎちゃうかもしれないけど」
「どっちにしろ危ねえだろ。貸せ」
すると内海さんは私の背後に回り、ブレスレットと髪にそっと触れる。そして少しいじったかと思えばすぐに毛先はほどかれた。
「ほどけた……」
「ちょっとやればすぐほどけるだろ。たかが少しでも女が簡単に髪を犠牲にするな」
「す、すみません」
「広瀬も。これくらいほどけるようになれ」
「あはは、ごめんごめん」
厳しい口調で言いながら、内海さんはブレスレットのとれた髪を整えるように、私の髪を撫でた。
そっとうなじに触れた指先の感触に、ドキ、とまた意識してしまう。
先日、涙を拭ってくれた長い指。広瀬先輩より細く、骨っぽいその手を思い出すと触れたところから熱くなる。
「おー、お前うなじ綺麗だなぁ」
「内海、親父くさい……」
「あぁ?うなじの綺麗さは大事だろうが」
そんな私の気持ちも知らず、内海さんは私の首元にそっと触れる。“触れている”その確かな感触に、心がドキッ、と強く音をたてた。
瞬間、ぐわっと上がる全身の熱。
「ちー?どうかした?」
「え!?あっ、えとっ……ちょっとトイレいってきます!!」
「へ?うん」
その熱さを隠すように、私は内海さんへのお礼もそこそこに席を立ち会議室を飛び出した。