ビター・スウィート
「っ〜……」
ドキドキ、している。意識している。あんな悪魔に触れられただけで。
異性に慣れていないから。だから、内海さん相手にもこうなってしまうんだ。うん、そう。きっとそう。
そう思うのに、まだ心臓はうるさいまま。うなじは、熱を帯びたまま。
……意識、している。そう明らかにわかる自分がいる。
バクバクとする心を抑えながら廊下を早足で歩いていると、向こう側から歩いてきたのは、先程商品部のオフィスにいた菜穂ちゃん。
「あ、ちーせんぱぁい。丁度よかった、この書類会議で配ってもらっても……ってあれ?顔赤いですけど、どうかしましたぁ?」
「菜穂ちゃん……私を殴ってください……」
「え!?いきなり!?」
殴られてでも、早く目を覚まさないと。だって、私おかしい。なにかおかしい。
どうしよう、どうしてだろう。こんなにも熱くなってしまうなんて。
いやいやいや、ない。ないない。私があの悪魔を異性として意識してしまうなんて。
私が好きなのは広瀬先輩だけで、ドキドキするのも広瀬先輩だけ。そう、内海さんにドキドキなんて……ありえない。
気のせい。うん、そうだ。よし。気のせい。