ビター・スウィート
結局菜穂ちゃんから殴られることはなく、書類だけを受け取った私は一度トイレで深呼吸をして気を取り直すと、また会議室へと戻った。
「平常心、平常心……」
すると会議室前の廊下の隅に、見えた二つの後ろ姿。
あれ?あれって……。
見ればそれは、先程会議室内にいた内海さんと恐らくどこかの部署であろう若い女性社員。私と同じ紺色の制服を着ている。
何をしているんだろう?
何気なく二人の様子を伺えば、女性社員が内海さんへなにか小さな袋を手渡しているのが見えた。
「これ、貰ってください」
「あぁ、ありがとう。悪いな」
プレゼント……?
こそこそと後ろから様子を伺う私に気づくことなく、女性社員はそれだけを渡すとその場を後にした。
「誕生日、ですか?」
「永井。いたのか」
疑問からついかけた声に、内海さんはこちらを振り向いた。
「別に、誕生日じゃなくても物くらいもらうだろ」
「えっ!そうなんですか!?」
「モテるからなー、俺」
……って、自分で言っちゃうんだ。
どうやらそれはあの女性社員から彼への好意の証らしく、内海さんはニヤリとした笑みで袋を開けながら会議室へと戻って行く。
「あ、クッキーだな。お前も食うか?」
「食べません!そもそも女性が内海さんのためにあげた物を……人の気持ちを何だと思ってるんですか!」
「貰った物をどうしようと俺の勝手だ」
そうかもしれないけど……やっぱり嫌な感じ!無神経!
先程の意識が嘘のように、いたって普通に会話をしながら会議室の中へ戻って行くと、そこでは先程同様笑顔で待つ広瀬先輩。