ビター・スウィート
「このバカ。泣くくらいなら最初からはぐれるなよ」
「だって、ブレスレット……」
「ブレスレット?」
顔を掴まれたまま私が差し出した壊れたブレスレットに、彼は『そういうことか』と察する。
「それ拾ってるうちにはぐれたってことか」
「す、すみませ……いたたた!!」
「本当大バカだなお前は」
その言葉とともに、顔を包んでいた両手で思い切り私の両頬を引っ張った。
「な、なにするんですか!」
「んなブレスレットの一つや二つ、また広瀬のヤローに買わせればいいだろうが」
「そんなこと出来るわけないです!」
「だがそれではぐれちゃ意味がないだろ。アホ」
「うっ……」
まるで子供を叱りつけるように言い聞かせる彼に、反論出来ず黙り込む。
そんな私に涙を拭い立ち上がらせると、内海さんは私の腕を引いて歩き出した。
「ったく……ほら行くぞ!」
「はい……」
「次迷子になったら置いていくからな!」
怒りながら、強く腕を引く手。それはしっかりと、離れぬように導いて行く。
いつもその優しさに、彼の前では泣けてしまう。
どうして、だろう。ブレスレットが壊れたことより、彼とはぐれて呆れられてしまうことのほうが怖かった。
つなぐ手が、熱い。だけど、その体温に安心する。ドキドキと心臓が音を立てて、うるさいくらい。
どうして、どうして、いくら考えても理由はわからないまま。