ビター・スウィート
「す、すみません、ご迷惑を……」
「いいよいいよ、でも電話であの勢いだったからちーもすごい怒られたんじゃないかと思って」
「あ……いえ、怒られたというよりは、心配をかけたというか」
「そうなの?まぁ、怒られてないならよかったけど」
怒られたは怒られたけど、それより心配してくれたというほうが大きい気がする。
『ほら行くぞ』
思い出す彼がつないでくれた手の大きさに、ドキ、と心が鳴った。
「あっ!それで、その時人ごみにひっかけて広瀬先輩からもらったブレスレット、壊しちゃって……」
「え?そうなの?でも綺麗に直ってるねぇ」
「はい、内海さんが直してくれたんです」
私の右手についた直されたブレスレットを見て、広瀬先輩は納得したように頷く。
「あぁ、内海器用だもんね。あの顔でボタンつけとか裁縫も得意なんだよ」
「そうなんですか!?」
器用だとは思っていたけど、そこまで!?
彼が裁縫するという意外すぎる姿を想像して驚きの声をあげてしまう。
「そんなことまで知ってるなんて、本当に仲がいいんですね」
「うん。同じ歳で同期、同じ部署となれば自然とね。なんとなく気も合うし」
あはは、と笑う広瀬先輩にふと気付く。これだけ仲がいいのなら、もしかしたら『カノンさん』のことを知っているかもしれない。
…聞いて、みようかな。
聞いていいことなのかはわからない、けれど知りたい気持ちは抑えきれず、覚悟を決めて小さく息を吸う。