ビター・スウィート
街灯やビルの明かりに照らされた街に、パラパラと降り続く雨。
無言で歩きながら隣を見上げると、高い位置で傘を持つ彼の顔がある。
……近い。
ひとつの傘に並べた肩はすごく近くて、時折小さく触れては心臓をうるさくさせる。
「そういや、明日までに提出の書類やったか?」
「はい。デスクに出してあります」
「そうか。感心感心」
開いたシャツの襟からのぞく、太い喉。この距離のせいか、様々なところに目がいってしまう。
「……っと、お前もうちょっと傘の中入れ。肩濡れてる」
「え?わっ」
すると不意にその左手は、傘を右手に持ち変えると、私の肩を軽く抱いて体を近付けた。
ま、ますます近い……!
何気なく近づくその距離に、かぁっと顔が赤くなる。
「どうかしたか?」
「な、なんでも!」
そんないきなり、心臓に悪いよ……!
私が傘にちゃんと入ったことを確認すると、手を離しまた歩き続けた。