ビター・スウィート
……どうしよう、聞いてみようかな。昼間広瀬先輩にはぐらかされた、『カノンさん』のこと。
気にしているわけじゃない。だけど、知りたいという気持ちには変わりない。
教えて、貰えるかな。拒まれないかな。でも、聞いてみなきゃ分からないから。
「……あの、」
「ん?なんだ?」
「この前、出張のとき……」
勇気を出して聞こうとした、その時。
「あれ、凌?」
響いた高い声に、足はピタリと止められた。
『凌』、内海さんをそう呼ぶその人に目を向けると、そこにはすらりとした体型にベージュのコートを着た、栗色のロングヘアの女性。
たれ目の愛らしい雰囲気のその女性の隣には、内海さんと同じ歳くらいだろうか、グレーのスーツにネクタイをきちんと締めた、茶髪のパーマの爽やかそうな男性がいた。
二人は驚いた様子でこちらを見たかと思えば、ぱぁっと笑顔となり近付いて来た。
「久しぶりじゃん!どうしたのー?」
「どうもこうも、見ての通り仕事帰りだよ」
そんな二人に内海さんはいつも通りの様子で応える。