ビター・スウィート
「……でも、叶わなくたって無駄じゃない」
「え?」
ぼそ、と呟くと、その視線はこちらへ向く。
「内海さんが花音さんを想った気持ちは、無駄なんかじゃないです。気付いてなくても、花音さんは内海さんの優しさに包まれて、絶対幸せでした。絶対、絶対に」
だから、想った心を『無駄』などと切り捨てないで。
“つらかった”、その気持ちだけにしてしまわないで。
あなたの愛はきっと、優しさになって伝わっているはずだから。それはまるで、自分の心にも言い聞かせるかのように。
「永井……」
内海さんは少し驚いた顔をする。
生意気なことを言ってしまっただろうか。言いすぎただろうか。だけど、伝えたいから。あなたに、知っていてほしいから。
「なんでお前が泣きそうな顔してるんだよ」
「してません!」
「してる。ブッサイクな顔してる」
「失礼な……ふがっ」
すると内海さんは私の鼻をぎゅっとつまむ。突然の息苦しさと触れた冷たい指先に、思わずまぬけな声が出た。