ビター・スウィート



「……でも、叶わなくたって無駄じゃない」

「え?」



ぼそ、と呟くと、その視線はこちらへ向く。



「内海さんが花音さんを想った気持ちは、無駄なんかじゃないです。気付いてなくても、花音さんは内海さんの優しさに包まれて、絶対幸せでした。絶対、絶対に」



だから、想った心を『無駄』などと切り捨てないで。

“つらかった”、その気持ちだけにしてしまわないで。

あなたの愛はきっと、優しさになって伝わっているはずだから。それはまるで、自分の心にも言い聞かせるかのように。



「永井……」



内海さんは少し驚いた顔をする。

生意気なことを言ってしまっただろうか。言いすぎただろうか。だけど、伝えたいから。あなたに、知っていてほしいから。



「なんでお前が泣きそうな顔してるんだよ」

「してません!」

「してる。ブッサイクな顔してる」

「失礼な……ふがっ」



すると内海さんは私の鼻をぎゅっとつまむ。突然の息苦しさと触れた冷たい指先に、思わずまぬけな声が出た。


< 95 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop