ビター・スウィート
悪魔のささやき
六月になり、雨が続くここ数日。
『商品部』と書かれたフロアの真ん中のデスクで、書類を見る俺をイライラとさせるのは、ジメジメとした湿気。それと、読みづらい子供のような丸い文字。
無記名でデスクに置かれていたその書類を手に、俺は席を立ち歩き出した。
「内海さん、どこ行くんですかー?」
「……隣だ」
「隣?あー……」
声をかけてきた後輩社員は、俺の言葉と顔から、俺が何をしに隣のフロアへ向かうかを察する。それくらい、俺のあいつを叱る怒鳴り声は日常茶飯事だ。
向かうは、俺の普段いる商品部のフロアの隣の部屋。同じ商品部でも『宣伝広告課』のあるフロア。
「おいコラ永井ぃー!!!」
「ひぃっ!」
バンッ!とドアを開け怒鳴りこめば、その高い声は悲鳴をあげるように響く。
見ればその場には同期である広瀬もおり、この光景を見慣れている広瀬は「あ、内海」と笑顔で出迎えた。