ビター・スウィート
「な、なんですか……書類だったらさっききちんと、」
「きちんと?名前も書かずに出した書類が『きちんと書いた書類』か?あぁ?」
「えっうそ!あ……本当に書いてない」
俺が突き返した書類を見て納得するその女に、またイラァッとした気持ちがこみ上げる。
「だいたいなんだこの字は!小学生か!」
「小学生!?ひどい!」
「ひどくねぇ!事実だ!!」
こんなくだらないことで、今日も俺は目を釣り上げイライラとする。
そんな俺に、キノコみたいな髪型……ボブ?っていうのか?をした社員・永井はビクッとし、広瀬の背後に隠れる。その永井を広瀬が背中に隠し「まぁまぁ」と俺を宥めるのも、いつものこと。
「どけ広瀬。そのガキを甘やかすな」
「まぁまぁ。ちーも短い期日で書類書き上げて必死だったんだよ。字だって可愛いじゃない」
「お前がそういうこと言って甘やかすからだなっ……」
怒鳴りながら見ると、広瀬の後ろから恐る恐るこちらを見る永井。
な、なんだその怯えた上目遣いは。まるで俺が悪いみたいだ……。俺だって人の子だ、そんな目で見られたら良心がズキズキと痛む。
「っ……くそっ!名前書いたらまた持って来い!!」
そんな心苦しさから逃げるように、俺はフロアをズカズカと後にした。