専務が私を追ってくる!
「謎?」
「どこかで会ったことある気がしてた理由とか、頑なにメガネを外させてくれなかった理由とか」
「ああ、そういう謎ですか」
以前はその理由を隠し通すためにハラハラドキドキしていた。
不自然な態度も取ってきたことだろう。
どうせ自分から正体を明かすことになるのであれば、再会したその日にしておけばよかった。
あわよくば知られないままで……と欲を出したから、無駄に心のHPを消費してしまった。
「今一緒に働いてるのは、本当に運命だったね」
「大袈裟です」
「そうかな。すごい確率だと思うけど」
大袈裟とは、確率のことを言っているのではない。
修が私との再会を、神様のご意志とか、天命に導かれたとか、それくらい壮大な事象のように表現していることだ。
「専務、言ってることが女の子みたいです」
「えー、そんなことないよ。ただちょっとロマンチストなだけで」
「自分で言わないでください。気色悪い」
「ひでー!」
「静かに。猫が起きます」
運命は運命でも、これは単なる運命の悪戯。
神様や天が、私みたいな汚れきった女に試練と罰以外の何かを与えるはずがない。
私がまたズルいことをしようとしたから、そうはさせぬという思し召しに違いないのだ。