専務が私を追ってくる!
私がかつて所属していた秘書課では、独り暮らしの女が犬や猫を飼い始めると、女としての価値が下がったとみなす文化があった。
ペットを飼うということは、多くの愛情や労力をそれらに注ぐということだ。
必然的に、家にいる時間も長くなるし。
美しくて洗練されている女は男性から引く手数多であり、仕事もデートもしなければいけないし、その間に自分磨きもせねばならない。
動物なんかを飼っている暇はないのである。
そういう考えから、極めて利己的で高飛車な私たちの間では
「ペットを飼い始める=モテなくなった」
という方程式が成り立っていた。
実際、ペットを飼い始める独り暮らしの女は、婚期を逃して開き直ったお局様や、失恋した寂しさを動物で埋めようとする者が多かった。
35歳になった課の先輩が、8年付き合った彼に若い女と浮気をされて別れた途端、犬を飼い始めたことがあった。
「ブリーダーやってる友達に飼ってくれってお願いされてね」
「海外セレブのだれそれが飼っているのと同じ犬種なの」
「早起きして散歩するから、ダイエットになってオススメ」
などと語っている彼女を見て、痛々しいとまで思っていた。