専務が私を追ってくる!
「私、は……」
「うん」
前のめりになって私の言葉を待つ修。
大きな目から放たれる強い視線に堪えられず、体の向きを変えた。
正面にあるテレビの黒い画面に、私と私を見つめる修がぼんやり写っている。
「私には、専務のおっしゃった“好き”が、リアルには感じられません」
「それは、どういう意味?」
ドキドキするとか、嬉しいとかが、ないわけじゃない。
本当は飛び上がりたくなるほど嬉しい。
だって「どう?」と聞かれれば、答えは間違いなく「私も好き」だ。
だけど、私は恋愛を禁止した。
自分のために。
そして、自分に関わる全ての人のために。
正直に答えたりしちゃダメだ。
「専務の“好き”は、“愛してる”とか“ずっと一緒にいたい”というより、“とにかく恋人と呼べる相手が欲しい”とか“性的欲求を満たしたい”という意味の方が強い気がしてならないんです」
望まない見合いを強要されている今、自分に恋人がいれば楽に逃れられる。
可愛がっている猫とも遊べる。
体の相性も悪くない。
私は彼にとって、目先のメリットのかたまりだ。
だから。
「私を好きだなんて、きっと専務の思い違いですよ」
言葉は勝手に口から出ていった。
彼を振るために、あえて冷たいことを言ったつもりだ。
だけど否定してもらいたいという理不尽な女心が働く。
ほらみろ、私はすでに嫌な女に戻りかけている。