専務が私を追ってくる!

「私、は……」

「うん」

前のめりになって私の言葉を待つ修。

大きな目から放たれる強い視線に堪えられず、体の向きを変えた。

正面にあるテレビの黒い画面に、私と私を見つめる修がぼんやり写っている。

「私には、専務のおっしゃった“好き”が、リアルには感じられません」

「それは、どういう意味?」

ドキドキするとか、嬉しいとかが、ないわけじゃない。

本当は飛び上がりたくなるほど嬉しい。

だって「どう?」と聞かれれば、答えは間違いなく「私も好き」だ。

だけど、私は恋愛を禁止した。

自分のために。

そして、自分に関わる全ての人のために。

正直に答えたりしちゃダメだ。

「専務の“好き”は、“愛してる”とか“ずっと一緒にいたい”というより、“とにかく恋人と呼べる相手が欲しい”とか“性的欲求を満たしたい”という意味の方が強い気がしてならないんです」

望まない見合いを強要されている今、自分に恋人がいれば楽に逃れられる。

可愛がっている猫とも遊べる。

体の相性も悪くない。

私は彼にとって、目先のメリットのかたまりだ。

だから。

「私を好きだなんて、きっと専務の思い違いですよ」

言葉は勝手に口から出ていった。

彼を振るために、あえて冷たいことを言ったつもりだ。

だけど否定してもらいたいという理不尽な女心が働く。

ほらみろ、私はすでに嫌な女に戻りかけている。

< 135 / 250 >

この作品をシェア

pagetop