専務が私を追ってくる!
翌朝、私は出社するなり専務室に行くよう指示された。
いつからかは知らないが、前専務は入院しているとかで、実質一昨日まで専務は不在だった。
そのため、この部屋が使われているのを見るのは初めてだ。
近づくとだんだん新しい部屋のにおいがしてくる。
開いているドアから中を覗いてみた。
天井と壁3面は白の壁紙が貼られており、一面のみダークブラウンの木目調。
90度横の壁にあるドアも同じ色柄の新しいものに取り替えられていた。
床のカーペットは濃いめのアイボリーで、壁の木目と平行に柄が入っている。
若専務らしいモダンなテイストだ。
天井にはエアコンとダウンライトが埋め込まれており、暖色の明かりが段ボールや発泡スチロールなどの梱包用品で散らかっている部屋を照らしていた。
「あ、郡山さん。おはよー」
ジャージ姿の修が、私に気付いてこちらを向いた。
首にタオルを巻き、軍手を装着した手には工具が握られている。
「おはようございます、専務。あの、何をなさっているんでしょうか」
「俺の椅子作ってんの。内装にこだわりすぎて、作ってある椅子を買う予算がなかったからさー。この後郡山さんのも作るよ」
「えっ? 私のですか?」
「うん。だって今日からこの部屋で仕事するんだし、デスクもインテリアに合うやつ買っといた。そのうち届くはず」
「嘘でしょ?」と言いかけて、何とか堪えた。
秘書だからって、必ずしも役員と一緒の部屋で働く必要はない。
前職では、秘書は秘書室で仕事をしていた。
それなのに。