専務が私を追ってくる!

「あの子。修くん、だったわね」

私の車の助手席で、母が呟いた。

「うん」

「雨宮くんにそっくりね」

そう言った母の声があまりにも優しくて、鳥肌が立った。

こんな声を聞いたのは初めてかもしれない。

あんまり意識して見たことはなかったけれど、親子だし、確かに似てると言えば似ている。

そっくりだと言っているのは、若かりし頃の社長にという意味なのだろう。

「社長、お母さんのこと好きだったらしいよ」

冗談めかして言うと、母はまたさっきと同じ声で答えた。

「知ってる」

「付き合ったりしなかったの?」

「しなかったわよ。私、高校時代は車を持ってる男の人としか付き合わなかったから」

「あーそうですか」

「それに……久美子ちゃんが雨宮くんのことを好きだったもの」

「奥様に遠慮したの?」

「そういうわけじゃ、ないんだけど」

私はそれを聞いて、もしかしたら母も社長のことが好きだったのかもしれないと思った。

母の青春時代を覗いた気がしてむずがゆい。


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