専務が私を追ってくる!

「私は事務所で十分です。部屋とご予算は専務のためだけに使ってください」

無理無理無理無理!

一緒の部屋で働くなんて、バレちゃう。

「何言ってんの。この部屋をメインで使うのは郡山さんだよ」

「え? 私ですか?」

「専務なんて仰々しい肩書きが付いてるけど、俺は所詮大口の営業マン。県内外を飛び回るから、この部屋で仕事する時間なんてほとんどないよ」

最後のキャスターを取り付けて出来上がった椅子を立て、にっこりと笑った修。

目尻が下がり涙袋がふっくらとして、あの夜と同じ笑顔だ。

ああもう、かっこいいなぁ……。

意に反して胸がときめいてしまう。

彼といる時間が少ないとわかって安心した。

今はまだ私があの時の女だとバレていないけれど、長く一緒にいればいずれバレてしまうかもしれない。

彼があまりこの部屋にいないということは、その可能性が減ったということだ。

「お手伝いします。私にできることは何でしょうか」

「そうだね、とりあえず段ボールとか袋とか、ゴミ捨てをお願いしようかな」

「承知いたしました。道具を取って参ります」

「よろしくー」

紐やハサミを拝借するため、事務所へ向かう。

東峰バス株式会社の本社は、5階建てだ。

1階はバスターミナル、2階と3階はショッピング施設になっている。

4階が事務所や資料倉庫で、5階が役員室や会議室だ。

立ち入ったことはないが、屋上はヘリポートになっているらしい。

あくまで噂だが、見たことはない。



< 17 / 250 >

この作品をシェア

pagetop