専務が私を追ってくる!
「私は事務所で十分です。部屋とご予算は専務のためだけに使ってください」
無理無理無理無理!
一緒の部屋で働くなんて、バレちゃう。
「何言ってんの。この部屋をメインで使うのは郡山さんだよ」
「え? 私ですか?」
「専務なんて仰々しい肩書きが付いてるけど、俺は所詮大口の営業マン。県内外を飛び回るから、この部屋で仕事する時間なんてほとんどないよ」
最後のキャスターを取り付けて出来上がった椅子を立て、にっこりと笑った修。
目尻が下がり涙袋がふっくらとして、あの夜と同じ笑顔だ。
ああもう、かっこいいなぁ……。
意に反して胸がときめいてしまう。
彼といる時間が少ないとわかって安心した。
今はまだ私があの時の女だとバレていないけれど、長く一緒にいればいずれバレてしまうかもしれない。
彼があまりこの部屋にいないということは、その可能性が減ったということだ。
「お手伝いします。私にできることは何でしょうか」
「そうだね、とりあえず段ボールとか袋とか、ゴミ捨てをお願いしようかな」
「承知いたしました。道具を取って参ります」
「よろしくー」
紐やハサミを拝借するため、事務所へ向かう。
東峰バス株式会社の本社は、5階建てだ。
1階はバスターミナル、2階と3階はショッピング施設になっている。
4階が事務所や資料倉庫で、5階が役員室や会議室だ。
立ち入ったことはないが、屋上はヘリポートになっているらしい。
あくまで噂だが、見たことはない。