専務が私を追ってくる!

4階の事務所へは、エレベーターを待つより階段を利用した方が早い。

そう判断した私は、エレベーターの前を通過し、階段へ。

すると踊り場の方から人の話し声が聞こえて、思わず足を止めた。

その声のトーンから、内緒話であることがわかったからだ。

「俺らより年下だろ、あの専務」

専務というキーワードに、ドキッとした。

あの専務とは、当然雨宮修のことであろう。

ヒールで足音が響かないよう、聞き耳を立てたままゆっくり壁に隠れる。

盗み聞きなんて趣味が悪いかもしれないが、彼の話題となれば聞かずにはいられない。

「社長のご子息様だってさ。まともに仕事できんのかよ」

「どうだかね。おぼっちゃまだもんな。今まで何やってたんだっけ」

「知らね。東京で遊んでたんじゃねーの? 見かねて社長が連れ戻したって噂だぞ」

声から判断するに、経理課の人たちだ。

当たり前だけれど、社長の息子であるというだけで専務の椅子に座る修を良く思わない者もいる。

私だって、社長の話を聞いたときは同じようなことを思った。

噂とか〜らしいと付ければ、想像で何を言ってもいいという下世話な文化。

それはこの会社にも発生しているようだ。

前の会社でだって、役員は陰口や良くない噂の格好の的だった。

程度の差はあれそうなるのは自然の摂理だと思っている。

しかし、私が彼の専属だからだろうか。

それとももっと別の感情があるからだろうか。

妙に複雑な……いや、すごく嫌な気持ちだ。

彼らはまだ何か話していたが、私はエレベーターを利用することにして静かに階段を離れた。

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