専務が私を追ってくる!
下行きのボタンを押して、扉の艶に映る自分の足元をぼんやり眺めながら、さっき聞いた陰口のことを考えていた。
4階の事務所の人たちは、みんな同じように思っているのだろうか。
他の営業所の授業員は?
各バスの運転手たちは?
もしかしたら修は今、敵だらけの状態で専務という要職に就いているのかもしれない。
エレベーター到着のチャイムが鳴り、扉が開いた。
ふらふらと足を進めると、ドンと何かにぶつかってしまった。
いや、ドンというよりはボヨン、だった気もする。
ハッとして顔を上げると、私がぶつかったのは北野一郎(きたのいちろう)副社長だった。
副社長はわりと小柄でスリムな社長とは打って変わって、とても大柄。
身長は180センチ越え、体重は100キロ越えというビッグなお方だ。
25年前、今の社長と共に会社の危機を救った英雄だと言われている。
元々は銀行員で、金融機関とのパイプをたくさん有しているという。
「副社長! 大変失礼しました」
慌てて謝ると、副社長は逆に「大丈夫?」と笑ってくれた。
「ぼんやりして、どうしたの?」
「ちょっと考え事を……。すみません」
「修くんのことかな?」
図星を突かれ、苦笑いが漏れた。
「はい……」
「彼のことは小さい頃から知っているし、困ったことがあったら相談してくれていいからね」
「恐れ入ります」
私が頭を下げると副社長は笑顔で手を振り、社長室と専務室の間にある副社長室へと入っていった。