専務が私を追ってくる!
目に溜まっていた涙を拭いながら早足で歩いていると、急に目の前が暗くなった。
ボヨン——
「きゃっ!」
体が跳ね返って後ろに傾いたが、腕を掴まれて難を逃れた。
ビックリした。
「大丈夫? 郡山さん」
顔を上げると、相変わらず立派なお腹をした北野副社長だった。
「申し訳ありません。前を見てなくて。失礼しました」
「前にもこんなことがあったね。ケガがなくてよかった」
「ありがとうございます。お出かけですか?」
彼はいつものクールビズスタイルだが、手にはカバンとスーツのジャケット、そしてネクタイを持っている。
その体型からも夏が苦手なのは明らかだが、そんな彼がジャケットを持って出掛けるということは、つまり、正装をしなければならない用事があるということだ。
「うん。金融機関を回るよ。僕が出ると先方に怖がられちゃうから、いつもは秘書のふたりに任せてるんだけどね。今回ばっかりは僕がお願いに上がらないとね」
「やっぱり、事故の件で……」
「そう。いくつか融資を渋られた」