専務が私を追ってくる!

私の答えを聞いて、修はピタリと手を止めた。

何かに勘付いたのだろうか。

怖くなって私の手も止まる。

心臓がいやに強くビートを刻む。

息苦しい。

「11月かー。親父からそろそろ会社手伝えって、言われた頃だな」

はぁ……よかった。

バレたわけじゃなかった。

あの夜、バーで物憂気な顔をしていたのは、この会社のことを考えていたのだろうか。

「別のお仕事をされていたんですよね。決心はすぐに付いたんですか?」

私が尋ねると、彼はふと眉間にシワを寄せた。

しまった。失敗した。

あの夜に彼が勤めているのがバス業界とは全然関係のない会社であることを聞いていたから、思わず『別のお仕事』なんて言ってしまった。

何も知らない人なら、同じバス会社に勤めていると思う方が自然だ。

「ガキの頃から“いつかはお前が社長になるんだ”って言われてきたから、決心はずっと前から付いてたよ。でも……自信がなくて、悩んでた」

あー、よかった。バレてない。

ヒヤヒヤした。

でもやっぱり、悩んでたんだ。

再びあのバーで見た横顔が蘇る。

「自信、ですか」

「うん。俺がまだ幼稚園とか一年生くらいの頃、うちの会社、一回潰れそうになったんだよ。先代のじーちゃんが急に亡くなってさ。毎日必死な親父の姿を見て、子供心に社長の大変さみたいなものを感じたから、ビビってた。もしかしたら、いつか首をくくんなきゃいけなくなるかもしれないんだ、とかね」

「なるほど」

その時に社長と副社長が頑張ったおかげで、今の東峰バスがあるというわけか。

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