専務が私を追ってくる!
荒らされた部屋の片付けをしていると、遠くで携帯のバイブ音が聞こえてきた。
耳を澄まし、音のする方へ向かう。
携帯は彼のカバンのポケットに入っていた。
震えているのは社用携帯の方だ。
ディスプレイを確認すると、『社長携帯』と表示されている。
上に持って行って彼を起こすべきだということはわかっていた。
だけど、今回だけはあえて、私が画面をスワイプする。
「もしもし」
「美穂ちゃんだね?」
息子にかけたが女が出たという状況に、社長はさして驚いたようではなかった。
いつもの優しい声だ。
「はい。すみません。専務は大変お疲れのようでして、眠っています」
「そうか。じゃあ、そのまま起こさないでやってくれるかな」
「承知しました。ご用件、私がお伺いします」
社長の声は、改めて聞くと修の声によく似ている。
社長の方が少ししゃがれているし、修より方言が強いけれど、心地いい優しい音がする。
「美穂ちゃん、今日のことは聞いてるかな?」
「はい、大体のことはうかがっています」