専務が私を追ってくる!
現在彼は取引先や大株主のもとへ、新任の挨拶をしに朝から晩まで県内外を飛び回っている。
まだ本格的な専務業を始めていないため、修以外からの電話はほとんど鳴らない。
余裕を持って働ける……というには、いささか暇なくらいである。
午後、持参した弁当でランチを済ませ、提出されていた領収書をのんびり処理していると、久しぶりに専務室の電話が鳴った。
ディスプレイには『専務携帯』と表示されている。
「お疲れ様です。郡山です」
右手でパソコンを操作しながら、左手で受話器を取った。
聞こえてくる音楽から、彼が自分の車にいるのだとわかる。
「あ、郡山さん? 今忙しい?」
「いいえ。昨日の領収書の処理ももう終わりますので、手は空きますよ」
「ほんと、良かった」
私はパソコンのリターンキーを押し、マウスを『OK』ボタンに合わせてクリックした。
あとは領収書を台紙に貼り付けてファイリングすれば終わりだ。
さて、どんな仕事が来るのだろう。
取引先への手土産の用意か、それとも昨夜の接待のお礼メールの送信か。
「どうぞ、何なりと」
私が告げると、修は軽い感じで切り出した。
「ドライブ行かない?」