専務が私を追ってくる!
「……はい?」
何言ってんの、この人。
今仕事中なんですけど。
「だから、ドライブ。今会社の駐車場にいるから、下りてきてよ」
「おっしゃっている意味が……」
「専務命令ってことでよろしく」
軽い感じで告げて、一方的に通話を遮断された。
彼が命令と言うのであれば、私にはドライブも仕事になる。
私は手早く領収書をファイリングして、後ろでひとつにまとめてあるだけの髪型を直し、バッグを持って駐車場へ向かった。
修はシルバーの車に背を預けていて、私の靴音に気付いてこちらを向き、微笑んだ。
「すみません、お待たせしました」
「いえいえ」
ああ、やっぱりかっこいい。
なんか、本当にドライブデートみたい。
ちょっと照れて、車に向かう足が速くなる。
すると修は、ヒュッと何かを投げてよこしてきた。
上に凸の放物線を描いたそれを、何とか落とさずにキャッチ。
捕らえた物を確認すると、何やら黒くて四角いプラスチックだった。
ロゴから判断すると、車のキーだ。
「じゃ、運転よろしく」
「えっ? 私が?」
「そうだよ」
私、女の子なのに……なんて考えちゃダメだ、図々しい。
これは仕事だ。
私が秘書なんだから、私が運転するのは当たり前。
修は呆然とする私をよそに、さっさと助手席へ乗り込んだ。