専務が私を追ってくる!

「お一人ですか?」

「はい。お姉さんも?」

「はい」

私たちはそれをきっかけに自然に話を始め、すぐに打ち解けた。

彼が私の横の席に来た頃には、話し方も砕けた。

「西麻布にはよく来るの?」

「うん。ストレスが溜まったりすると、こういうところで飲みたくなるの。今日は女一人で赤坂にホテルまで取ってる」

「はは、がっつり飲む気だ」

「そんなには、飲めないんだけどね。お兄さんもよく来るの?」

「俺はたまたま。根が田舎者だから、麻布とか六本木とか、実は苦手なんだ」

笑うと目尻が下がり涙袋がふっくらとして、幼く見えるところもいい。

シャンディー・ガフのグラスを掴む手の、血管が浮き出ている甲もいい。

タバコのフィルターを挟む、太い指もいい。

男らしいけど男過ぎない。

モテそうだけどチャラチャラはしていない。

物腰が柔らかくて、雰囲気が暖かい。

楽しい時間を重ねていると、話はだんだんプライベートな内容に差し掛かる。

「ねぇ、名前は?」

「ミキ。お兄さんは?」

「俺はオサム。仕事は何してるの?」

「何って言われると微妙だけど、一応肩書きは秘書」

先日辞めてしまったが、とは言わないでおいた。

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