専務が私を追ってくる!

「えっ、マジ? どうりで頭のてっぺんから爪の先までキレイなはずだ」

彼は私の期待以上にテンションを上げた。

やっぱり秘書というブランドは便利だ。

「ありがとう。でも秘書なんて格好だけで、仕事は事務と雑用ばっかりよ?」

「そうなの? 会社や上層部の機密情報とか、たくさん扱ってそうだけど」

「ないない。そういうのは別の人たちがやってるから、やり甲斐ないのよ」

「へぇ。イメージと違ったな」

嬉しそうに食い付く彼に、使い慣れたセリフを展開していく。

私にとってはテッパンネタになっている話だが、彼は興味深そうに聞いてくれた。

「あなたみたいにカッコイイ重役なら、もっと張り切って働くんだけどね」

「ほんと? じゃあ俺、出世してミキちゃんを秘書にスカウトしようかな」

アルコールの効果で頬を染めた色っぽい顔付きもたまらない。

この人の全てがキラキラして見える。

私、結構酔ったかも。

そう自覚した頃には、彼をすっかり好きになっていた。

だから。

「今夜泊まる部屋、夜景がすっごくキレイなんだ」

「へぇ、いいね」

「よかったら、遊びに来ない?」

こんな思い切ったことを自分から言ったのは初めてだ。

「それって、そういう意味で誘ってる……とか、都合の良いこと考えちゃうよ?」

「私じゃ、ダメかな?」

彼は驚いた顔をして、火をつけて間もないタバコを灰皿に押し付けた。

「ダメなわけない。逆だよ。俺でいいの?」

「あなたが、いいの」

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