専務が私を追ってくる!
「きっとこっちでも素敵な出会いがありますよ。専務、毎日いろんな会社を飛び回ってますし」
出先で出会った女性だっているだろう。
その容姿で、専務という立派な肩書きがついて、尊敬できる人格を持っている。
彼の母が心配するまでもなく、モテるはず。
「うん。でも、もう少し粘ってみるつもり。なんだかんだで東京出張の予定も、ちょこちょこあるからね」
あの夜、彼は私をその女の代わりにしたのだろうか。
繋いだ手も、全身に触れた唇も、耳元で囁いた言葉も。
例えかりそめでも、あの時だけは、私だけを思っていてほしかった。
「頑張ってください」
「……うん……」
気のない応援の言葉に、気のない応答。
彼は再び、私の顔をチラチラ見始めた。
「どうしました?」
「ねえ、やっぱり俺たち、どこかで会ったと思うんだよね」
さっきとは違い、確信があるような口調だった。
二人きりの空間に色っぽいダウナー系のラップが響いて、同じ低音のリズムを刻むように心臓が反応する。
動揺を感じさせてはいけない。
「だったら、本当にどこかでお会いしていたのかもしれませんね」