専務が私を追ってくる!

今の生活を始めてからは、給料は前職より少し減って、生活費は以前の実家生活の何倍もかかっている。

そのはずなのに、お金は前より余るようになった。

きっと以前の私が、衣類や装飾品、それからサロンや化粧品に使いすぎていただけである。

無駄遣いがなくなったし、これでいい。

だけど……。

たまには華やかな格好が似合うことを確認したい。

今日は本来、そのための解禁日だったのだ。

着替えを終えて、鏡の前に立つ。

白とブルー系でまとめた、ベーシックでコンサバティブな装い。

ここで初めて、ヴィヴィッドオレンジのパンプスが妙に浮いていることに気付く。

靴のこと、忘れてた。

靴まで新調すると荷物になるし、もうこのままでいいや。

卷いた髪をゴムでひとつにまとめ、クレンジングシートでアイメイクをキレイに落とすと、華やかだった私が半分ずついなくなる。

解禁日、終了。

目元のファンデーションを直したら、最後にメガネを装着。

会社にいる時と変わらぬ私の完成だ。

着てきた服を畳んで、ランジェリーショップの紙袋に収め、ちゃんと隠しておく。

下着を購入したときは、紙袋の中身が見えないよう、布のような紙地で包んでくれる。

それが役に立った。

一息ついて、発信。

「もしもし、郡山です。今ウォークシティにいるのですが、専務はどちらにいらっしゃいますか?」

< 55 / 250 >

この作品をシェア

pagetop