専務が私を追ってくる!
「いやー、助かった。これで明後日までに書類にできる」
修がおさむ帳を閉じ、バッグにしまう。
「お役に立てて良かったです」
私は脱いでいた靴を履き、立ち上がった。
ここからは見えないけれど、外はすっかり暗くなっているはずだ。
「休みに付き合わせちゃったし、飯でもおごるよ」
「専務、私今日は……」
帰ります、と言いたかったのだが。
「今日はいいだろ? 明日も休みだし。会社で誘っても“明日も仕事だからまた今度”とか言って、まだ一度も飯に付き合ってくれてないじゃん」
断るのを遮って捲し立てられ、逃がしてもらえそうにない。
オフィシャルの飲み会以外、原則外食は禁止だ。
あれ、でも今日は解禁日……?
「う……えっと、その」
たじろぎざまに一歩後ろに下がると、疲れた足は頼りないヒールでふらついてしまう。
そんな私に修が二歩近づいて、捕らえるように私の左腕をそっと掴んだ。
じわりと体温が染み込んでくる。
完全に捕まっている。
本当に逃げられない。
「それとも、辛いの?」
近いところから私を見下ろす修の顔は、いつもよりずっと冷たく見えた。
「え?」
「本性を隠し続けるのが」