専務が私を追ってくる!
「毎日使うと汚れてしまうから、普段使いしてないだけです」
修は私を冷たく見下ろしたままもう一歩迫ってきた。
反射的に私も後ずさる。
「ふーん……フランクミュラーなんて、何十万もするのに?」
「だからこそ、です」
無言で疑いの目を向け続ける。
私の言い分には納得していないようだ。
彼がじりじり近寄ってくるから、私もずるずる後退する。
腕を掴まれたままだから一定距離以上は離れられないが、これ以上寄られると色々ヤバい。
そのうちクシャ、と髪がクッションになって、頭が壁に付いてしまった。
「専務っ……」
掴まれている腕に掛けていたバッグと下着屋の紙袋が私と修の間に挟まって、絶妙な距離を保たせる。
「この買い物袋。不自然にパンパンだ。俺に会う前にどこかで服を買って、着替えて、元々着てた服をこの中に入れた……とか、妄想が膨らんじゃうね」
何なの、この人。
とぼけた顔して鋭すぎる。
とりあえず、私があの時の女だとまではわかっていないようだけれど、このままじゃ時間の問題だ。
「……違います」
違うというのが嘘だけれど、私にはもう否定するしか手がない。
「よく見るとメガネもいつもと違う……っていうか、このレンズ、度が入ってないし、目にコンタクト入れてるね」
不意に顔を近付けてまじまじと見つめてくる。
慌てて逸らすが、この距離で意味はあるのだろうか。
「それはっ……」
どうしよう、心臓が暴れて治まらない。
いろんな意味でドキドキする。