専務が私を追ってくる!
パッと、修の手が私から離れた。
ホッとしたのも束の間、彼の手は私の顔に迫ってくる。
マズい、メガネを外そうとしている。
「素顔、見たい」
「ダメっ!」
左からやって来る彼の手。
右に逃れようとすると、彼の腕が遮った。
逃げ道は上か下かのいずれしかない。
私は背中を付けたまま、ズルズルとしゃがみ込んで下に逃げ、顔を膝に埋めた。
メガネをかけた顔は、何とか守られる形になった。
フーッと上でため息の音がする。
「ごめん。そんなに嫌なら、もう踏み込まない」
私は顔を下げたまま、返事もしなかった。
「東京からわざわざこんな田舎に引っ越してくるなんて、何かワケアリなんだろうなとは思ってた。隠したい過去があるなら、それを無理に聞き出そうとは思わない」
だったら、どうしてこんな風に迫ったの。
ふわっと空気が動いて、彼もしゃがみ込んだのを感じた。
恐る恐る顔を上げると、寂しそうな表情の彼が再び私の腕を掴み、一緒に立ち上がる。
「ごめんね、本当に。郡山さんのこと、信用してるんだ。だから俺も同じだけ君に信用されたい。思ってることとか、隠さないで見せてほしいんだよ」