専務が私を追ってくる!

パッと、修の手が私から離れた。

ホッとしたのも束の間、彼の手は私の顔に迫ってくる。

マズい、メガネを外そうとしている。

「素顔、見たい」

「ダメっ!」

左からやって来る彼の手。

右に逃れようとすると、彼の腕が遮った。

逃げ道は上か下かのいずれしかない。

私は背中を付けたまま、ズルズルとしゃがみ込んで下に逃げ、顔を膝に埋めた。

メガネをかけた顔は、何とか守られる形になった。

フーッと上でため息の音がする。

「ごめん。そんなに嫌なら、もう踏み込まない」

私は顔を下げたまま、返事もしなかった。

「東京からわざわざこんな田舎に引っ越してくるなんて、何かワケアリなんだろうなとは思ってた。隠したい過去があるなら、それを無理に聞き出そうとは思わない」

だったら、どうしてこんな風に迫ったの。

ふわっと空気が動いて、彼もしゃがみ込んだのを感じた。

恐る恐る顔を上げると、寂しそうな表情の彼が再び私の腕を掴み、一緒に立ち上がる。

「ごめんね、本当に。郡山さんのこと、信用してるんだ。だから俺も同じだけ君に信用されたい。思ってることとか、隠さないで見せてほしいんだよ」

< 64 / 250 >

この作品をシェア

pagetop