専務が私を追ってくる!

『美穂ちゃん、もう新しい仕事には慣れた?』

「はい、何とか」

『修とは仲良くやれてる?』

「やれていると思いますよ」

社長はいつも、私を気にかけてくれている。

息子の部下というよりは初恋の人の娘として見られている気がするけれど、可愛がってくれるのは素直に嬉しい。

『急に専属秘書なんてお願いして悪かったね』

「謝らないでください」

確かに急ではあったけれど、やり甲斐はあるし充実していると思う。

『僕たちはずっと美穂ちゃんにお願いしようと決めてたんだけど、急に申し出ることになったのには、理由があってね』

その話は人事の人にちょっとだけ聞いて知っていた。

「他に候補者がいたとうかがいました」

それが誰かは聞いていない。

しかし私に回ってきたのが直前だったということは、その人の方が望ましかったということだ。

『うん。実は息子に“自分の秘書はスカウトしたい人がいるから、まだ辞令は出さないでくれ”って言われてたんだよ。直前まで粘ったらしいんだけど、結局良い返事がもらえなかったみたいだね』

スカウトするほど一緒に仕事をしたかった人がいたんだ。

それは男かな?

それとも女?

「そうでしたか」

修には中学生の頃から描いてきた夢がある。

専属秘書とはつまり、共にその夢を追いかける相棒であるはずだ。

それなのに、こんな見ず知らずの地味な女をあてがわれて、さぞかし期待外れだったに違いない。

『郡山さんのこと、信用してるんだ』

なんて言ってたけと、本当はどうなんだろう。

自分でスカウトした人の方が良かったに決まってる。

私しかいないから、仕方なく信用してやってるんじゃないの?

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