専務が私を追ってくる!
酷い女?
それは、連絡先どころか名前すら教えてくれないから?
それとも、何かもっと酷いことをされたの?
それなのに、好きなの?
尋ねようと思ったが、専務室の電話が鳴ったため、話はここで中断されてしまった。
彼が眺めている天井を見ても、当然ながら彼女は映っていない。
彼は一体、どんな恋をしているのだろう。
私と寝たときも、その人のことを思いながら抱いたのだろうか。
だとしたら、複雑だ。
私は純粋に彼に恋をしていたのに。
私は胸にモヤモヤを残したまま、多忙な業務を開始した。
翌週木曜日。
修は明日の打ち合わせに向けて、東京行き夜行バスに乗る。
自宅で宿泊の準備をして、会社に戻って腰用クッションとネックピローを持ち、1階のターミナルからバスに乗り込むのが通例だ。
いつもは余裕を持って戻ってくるのだが、この日彼が専務室に到着したのは、バスが出発する10分前だった。
「良かった間に合った」
安堵しながら私が準備しておいたクッションとチケットを手に取る。
スーツで夜行バスに乗るとシワになるという理由で私服姿の彼は、こう見るとただの旅行客だ。