専務が私を追ってくる!
頭が真っ白になった。
何ヶ月も前。
誘って、して、逃げた記憶が、私にもある。
いやいや、まさか。
「名前も知らない女性と、したんですか」
「下の名前は聞いてたんだけど、どうやら偽名だった」
「偽名……」
口から心臓が飛び出てしまいそう。
この強い鼓動、修に聞こえていないだろうか。
体がリズムを刻んでいるのがバレていないだろうか。
「彼女が名乗った名前と、書き置きに残されてた名前が違った。たぶん、どっちも本名じゃない。俺は始めから、騙されてたことになるな」
ミキ、ミカ、美穂。
これはもう、認めざるを得ない。
私であると。
ああ、神様は本当に意地悪だ。
私はもっと心穏やかに、あの素敵な夜の余韻を楽しむはずだったのに。
修があの夜を引きずっているなんて、思ってもみなかった。
あれは私だったと申し出るべきだろうか。
このままじゃ、修は私のせいでまた無駄足を踏むことになる。
心が変に痛い。