専務が私を追ってくる!
修の顔は、至極真剣だ。
脈がまた強くなる。
私の脈で、彼の手も震えているように見えた。
これが、修の望む“私たちのこれから”なのだろうか。
そんなのダメだ。
嘘つきな専属秘書と淫らな関係を持つことが、新人専務のメリットになるとは思えない。
それに……
「ダメです。私今、恋愛も禁止してるんです」
だから当然、そういう行為も不可。
しかしあざとい修はそれが何だとばかりに笑む。
「今日は解禁日だって言ったじゃん」
修に掴まれた手が持ち上げられて、そっと彼の柔らかい唇が触れた。
ちゅ、ちゅ、と何度も軽く口付けられる。
右手から全身に、不埒な感情が駆け巡っていく。
彼の大きな瞳が私のその感情を見逃すはずはない。
「専務っ……! 今日じゃなくて、これからのことを……」
「顔、赤いね。かわいい」
ダメだ、敵わない。
「……酔ってるんです。放してください」
修はそんな私を嘲笑って、反対の手に挟んでいたタバコを灰皿に押し付けた。
「マスター、お会計二人分。それから、タクシー呼んでください」
そう言って、グラスの残りを飲み干す。
「専務!」
修は左手で私の手を握ったまま器用に財布からカードを取り出し、支払いを済ませた。
店の側に雨に濡れたタクシーが到着しており、手を引かれるがまま乗り込む。
修が運転手に告げたホテルの名前は、前に私が取ったホテルと同じだった。
私は寄り添うことも逃げることもできず、人形のように黙って手を握られていた。