専務が私を追ってくる!
互いの思いが混じって重くなった空気を循環させるように、私はテキパキ仕事を始める。
「早速ですが、湾岸バスからメールが来ています。改訂された事故防止マニュアルと新しい時刻表の提案書です。バス事業部には転送しておきました。専務も確認されますか?」
口調、声のトーン、視線の向け方。
完璧にいつも通りを演じることができたはずだ。
「するよ。俺のアドレスに転送して」
口調、声のトーン、視線の寄越し方。
修は明らかに私を見る目を変えている。
私はそれに気付いていないフリをしなければならない。
どんなに気まずくても、仕事はちゃんとやる。
「承知しました」
ヒヤヒヤしたけれど、こうして秘書を続けることを許されたのだから、これ以上信用を欠くようなことはしたくない。
冷静に、淡々と、いつも通りに。
修が専務室にいることは少ないから、必要に迫られて会話する時以外は何も変わらない。
変化と言えば、修が下らないことで私を笑わせようとしたり、プライベートな質問をしたり、コンタクトや私服勤務を勧めてきたりしなくなったことくらいだ。
私たちの異変に気付く者もいないし、特に問題はない。
だけど心はソワソワする。