専務が私を追ってくる!
私たちの異変など関係なく、仕事はやってくる。
よそよそしいまま月が変わり、株主総会を無事に終えた6月中旬のある日。
キリの良いところでお昼の休憩を取っていると、専務室の扉がノックされた。
私は食べていた弁当を飲み込み、ノックから数秒遅れて「どうぞ」と告げ、立ち上がる。
ドアの磨りガラスに映ったシルエットから、誰が来たかはわかっていた。
社長秘書の園枝さんだ。
「昼休みにすみません。どうしても今しか時間がなくて」
「いえいえ、構いませんよ」
彼が持ってきた書類を受け取り、軽く中身を確認する。
社長から回ってきた仕事のようだ。
「全て専務に回した方が良さそうですね。あ、15時からの会議の準備は既に完了しています。専務もそれまでには戻られるそうなので、定刻通り始められますよ」
「毎度雑用をお願いして申し訳ありません」
「秘書の中では私が下っ端ですから、遠慮なく使ってください」
この会社には、秘書と呼ばれる人間が4人いる。
社長秘書の園枝さんと私。
そして滅多に会うことはないが、大柄な北野副社長には男性の秘書が2人付いている。
私以外の3人は、もう軽く10年以上秘書として働いている方々だ。
前職のキャリアを足したって、私は遠く及ばない。