キスから始まる方程式
「俺? 一個も貰ってないぜ」
「へ……?」
予想外の返答に、おもわず動かしていた手が止まった。
「だって桐生君あんなにモテるんだから、いくらなんでも0(ゼロ)ってことはありえないでしょ……?」
「ん、まぁ……な」
「?」
頬を指先でポリポリとかき、桐生君が不自然に視線をそらしながら言葉を続ける。
「彼女いるからって、全部断った」
「……」
桐生君の言葉に目を丸くしたまま固まる私。
「ご、ごめん。念のため確認するけど……その『彼女』って……」
「あぁ、そりゃもちろんお前のこと」
「っ!」
平然と答える桐生君に、再び私が声を荒げる。
「だから私っ、桐生君と付き合うなんて一言も言ってないってば!」
「まぁでも、あいつらにはお前がその相手だとはまだ言ってないし。
それに、いいだろべつに。俺達キスまでした仲なんだしさ」
「キッ……!」
「それとも……キスでもダメなんだったら、さっさとそれ以上のことして誰にも文句言わせねーような既成事実作っちまうか?」
「っ!!」
最後の部分は、私の耳元で囁くようにして桐生君がそっと呟いた。