キスから始まる方程式
「七瀬ぇ……大丈夫?」
疲れ切って肩を落とした私に、隣を歩いていた麻優が心配そうに見上げてくる。
「あはは……。結構ヤバいかも……」
負のオーラを全身から放出しつつそう答えると、麻優が苦笑しながら口を開いた。
「まぁ、七瀬のお相手が校内一のモテ男の桐生君なんだからしょうがないよ」
「だ~か~ら~、べつにちゃんと付き合ってるとかじゃなくて……」
「でもさ、ファンクラブの子達の前で堂々と交際宣言しちゃったんでしょ?」
「う……」
「しかも、ちゃっかり『キス』まで」
「っ! ど、どうしてそれを!?」
キスされたことは麻優には言ってなかったのに!
ニシシ、といたずらっ子みたいな笑みを浮かべながら、麻優が横目で私をチラ見する。
「そんなの、と~っくに校内中に知れ渡ってるよ~?」
「ゲゲッ……マジで……?」
「うんっ」
楽しげに頷く麻優とは対照的に、私の負のオーラが更にどす黒い色へと変貌して行く。
両肩に悪い霊でも憑いているんじゃなかろうかと思うくらい重怠い倦怠感が、私の心ごと体を襲うのだった。
「はぁ……っ。まいったなぁ……」
幸せが逃げてしまいそうなほど深い溜め息をつく私。
「あっ! あれ風間君じゃない?」
そんな中、階段を上がってきた翔とバッタリ廊下で出くわしたのだった。