キスから始まる方程式


「あれ? 風間君、今絶対私達に気付いてたよね……? どうしちゃったんだろ?」



「いつもなら笑顔で挨拶してくれるのに」と目を白黒させながら、翔が入って行ったF組の教室を見つめる麻優。



「まさか七瀬、ま~た風間君とケンカでもしちゃったの?」

「え? あ……うん……、まぁ……ね……」

「んもう、早く仲直りしなきゃダメだよ~」



「めっ!」と麻優が可愛らしく私をたしなめてくれたのだが、今までのケンカの時とは明らかに違った翔の様子に心が浮上してこない。



「あっ、ほら! 早くしないと、購買部のパン売り切れちゃうよっ」

「あっと……う…ん、そだね」



立ったまま相変わらず浮かない顔をしている私を心配したのか、わざと明るいトーンで話す麻優に腕を引かれて再び歩き始める。


けれど翔の痛いくらい冷たい瞳は私の瞼の裏に残像のように焼き付いて、いつまでたっても離れてくれなかった。
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