キスから始まる方程式
―― 15分後。
遅い……。遅すぎる!
基本男の子は着替えも早く、女の子と違ってダラダラとおしゃべりなどをして部室に残ったりしないため、部室の滞在時間は極めて短い。
現に先程会った男の子達はとっくに着替えを済まして帰宅している。
それなのに、待てど暮らせど肝心の翔が一向に姿を現さないのはいったいどうしたことだろう?
校庭から引き揚げてくる部員もパッタリ途絶えちゃったし……。
もしかして、私が部室から出る前にもう帰っちゃったのかな……?
冬場のこの時期は日が沈むのが早いため、運動部・文化部問わず、部活動の時間は一律午後5時半までと校則で定められている。
左手首にはめた腕時計に目をやると、時刻はとっくに午後6時を回っていた。
「うっわ! もうこんな時間!」
気が付けば先程までは薄暗い程度だった空も、今は瞬く星が見える程真っ暗だった。
仕方ない……。今日はこのまま帰ってまた明日考えるしかないか……。
寒さからブルッと身震いする体を両手でさすり、マフラーを口もとが隠れる位置まで右手で押し上げる。
隙間から漏れる白い息を虚しく見つめながら、私はひとり校門へと歩き出した。