キスから始まる方程式
「翔っ……!」
突然目の当たりにした大好きな人のひたむきな姿に、ドキンと鼓動が高鳴る。
ナイター用の灯りもない暗闇にもかかわらず、なぜだか翔の姿だけが切り取られたように眩しく浮かび上がって見えた。
翔……やっぱりサッカーしてる時が一番カッコイイな……。
久しぶりに見た翔のサッカー姿に、思わず胸がキュンとなり自然と笑みがこぼれる。
首に巻いたマフラーを握る手にも、知らず知らずのうちにギュッと力がこもっていた。
でも……どうしてこんな時間までひとりで練習してるんだろう?
ボールもまともに見えないほど暗い中、ひたすらボールを蹴り続ける翔。
その姿はまるで何かから逃避するために、ただがむしゃらなようにも見える。
練習熱心なのはいいけど、いくらなんでもこのままじゃ風邪ひいちゃうよっ……。
一瞬昼間の翔の冷たい瞳が頭をよぎったのだが、やはり大好きな人には元気でいてほしい。
下校時刻もとっくに過ぎたこの真冬の寒空の中、このまま翔を放っておくわけにはいかないと思った私は、押し寄せる不安を抑えつつ翔のもとへと足を踏み出したのだった。