キスから始まる方程式
ザンッ……ザンッ……
相変わらず響き渡る、ボールがゴールネットを揺らす音。
「っはぁっ……はぁっ……」
それと同時に、一歩一歩距離が近付くにつれ翔の荒くて苦しそうな息づかいも私の耳に聞こえてきた。
翔……。
なんだか辛そうな翔の姿に、自然と私の胸も苦しくなる。
地面を踏みしめる足も、意識して前に出さないと止まってしまいそうだった。
声……かけられない……。
翔の近くに寄ってはみたものの、そのあまりの真剣さと異様なほど張り詰めた空気に言葉が出てこない。
情けない話だが、それ以上どうすることもできずにその場にじっと立ち尽くすしかなかった。
やがて……
ガンッ
枠を外れゴールポストに当たったボールが、ゆっくりと私のもとへと転がって来た。
どうやらカゴに入っていたボールは、それが最後の一球だったらしい。
辺りに散らばったボールを集めるために、翔がおもむろに最後のボールが転がった方へと身をひるがえした。