キスから始まる方程式
「! ……七瀬……」
ようやく私に気が付いた翔が、驚きのあまり目を見開き動きを止めた。
「翔……」
そうかと思った次の瞬間、何事もなかったように無言のまま再びボールを拾い集める翔。
やはり昼間同様、その瞳は凍りつきそうなほどに冷たい。
「あ……あのっ……翔っ」
「……」
私の問いかけに、返事は返って来ない。
「ひとりじゃ大変でしょ? 私もボール拾うの手伝うよ」
他に何とも言いようがなくて、私も無言のままボールを拾い始めた。
翔……何も言ってくれない……。やっぱり怒ってるのかな……。
でも、今回は怒ってるだけじゃなくてなんかいつもと様子が違う気がする……。
一言も会話を交わさないまま最後のボールを拾い上げカゴへと入れた時、不意に翔が口を開いた。