キスから始まる方程式
「お前……何しに来たんだよ……」
「え……? 何しにって……私は……その……」
カゴに入ったボールを見つめたまま、翔が続ける。
「たいした用もないなら、もう俺のとこなんかに来るな……」
「翔……? どうしたの……?」
「俺なんかと一緒にいるところアイツに見られたら、誤解されるだろ?」
「アイツ……?」
翔の言いたいことが全然わからない。
『アイツ』って誰のことだろう……?
「か、翔、何言ってるの? アイツって誰のこと?」
「っ!」
おろおろと戸惑っている私に、翔が苛立たしげに突然声を荒げた。
「アイツって、桐生のことに決まってんだろっ!?」
「桐生君!?」
「お前ら付き合ってんだろ? キスまでするような仲なんだろっ!?」
「っ!! ……あっ、あれはそんなんじゃなくて!」
「じゃあいったい何だって言うんだよっ」
「それは……」
以前桐生君が翔に『七瀬は俺の女』発言をしているうえに、噂になっているとおり実際にキスされているため、それ以上何も言い返すことが出来ない。
どうしたらよいかわからず顔を歪め口を閉ざした私を、翔が更に冷たく突き放した。
「七瀬……俺達は単なる幼なじみで……。
お前の彼氏は桐生だし、俺の彼女は南條だ……」