キスから始まる方程式
「お母さん、今日は早番でもう出掛けなくちゃだから、戸締りよろしくね」
「う~……、わかった」
「じゃ、行ってきま~す」
「はいはい、いってらっしゃい」
そう言ってお母さんはパタパタと玄関に走って行ったかと思うと、すぐさまキッチンへと戻ってきた。
「どしたの? 忘れ物?」
「うん、ちょっと言い忘れちゃった」
「?」
「桐生君、早くうちに連れて来てお母さんにも紹介してねっ」
「っ!? お母さんっ!!」
「うふふっ! じゃ~ね~、今度こそ行ってきま~す」
「んもうっ!」
クスクスと笑いながら、慌ただしくお母さんが出かけて行く。
「だからほんとに、そんなんじゃないんだってば……っ」
他に誰もいなくなったキッチンでひとりブツブツとぼやきながら、お弁当を包むためのナプキンを探す。
べつに……このお弁当だって、指輪をみつけてもらった単なるお礼なだけだもん。
それに、バレンタインの時だってあんまり美味しくないガトーショコラ食べさせちゃったし……。
ちゃんとお詫びとお礼しないと、なんだか借りを作ったみたいで嫌じゃない……っ。