キスから始まる方程式
ガシャン
家の門を出ていそいそと歩き出す。
「あっ!」
だがしかし、僅か50m視線の先に翔の姿を発見した私は、反射的にすぐそばにあった電柱の陰へと身を潜めた。
今日翔、朝練ないの!? ……ってか私、なに隠れてんだろ……。
ドクドクと脈打つ心臓を押さえながら、しばしその場でやり過ごす。
しかし途中でどうしても我慢できなくなり、電柱の陰からそっと顔を出し翔の様子をうかがった。
……翔……。
距離が離れ、もう豆粒ほどに小さくなってしまった翔の後姿をじっと見つめる。
ここのところ鉢合わせしそうになるたび先程のように翔から逃げ出していたため、結局一週間前のあの日から、翔とは一度も顔を合わせていなかった。
翔に会って避けられるくらいなら、私から避けた方がまだましだもん……。
『俺に近付くな』
翔の冷たい言葉と瞳が、不意に私の脳裏に蘇る。
途端に胸がギュッと締め付けられ、切なさでいっぱいになった。