キスから始まる方程式
……べつに……キスぐらい……当たり前だよね……。
今朝作った2人分のお弁当を胸に抱え、桐生君が待つ管理棟階段の踊り場へとゆっくり向かう。
二人のキスシーンを目の当たりにし、その場から逃げるようにして離れた私は、その後二人がどうなったのか知らない。
だがしかし、あの展開ならば万事ことが丸く収まったことは恐らく間違いないだろう。
今どきの高校生だもん……。南條さんの言うとおり、付き合って半年も経つのにしてなかったほうがおかしいし……。
私でさえしてるんだから……仕方……ないよね……。
ほとんど停止状態の頭で必死に理由づけをし、なんとか自己解決しようと試みる。
それでもどうしてもやりきれなくて……。
二人のキスシーンが脳裏に浮かぶたび、目の前がクラリと歪んだ。
やっぱり中庭なんか通るんじゃなかったな……。
ここ最近中庭は、私にとって鬼門だったのに……。
先日のバレンタインの時も、二人と遭遇したのは確か中庭だった。
そうとわかっていながら突き進んでしまった自分がなんとも恨めしい。
下を俯いたまま絶望的な気分で歩き続けること数分。
ようやく桐生君との待ち合わせ場所である階段へと辿り着いた私は、沈鬱な気持ちを悟られぬよう無理やり胸に押し込め、ゆっくりと段を上って行った。